ある冬の日。
 飛騨の國に入ったあたりだろうか。無雲と円心は、一面真っ白な銀世界の中にいた。田畑も木々も雪に埋もれ、振り返ると二人が歩いた跡だけが点々と続いている。

「今日はあそこへ泊めていただこう。」

 無雲ははるか道の向こうに一つだけ見える民家の明かりを指さして言った。合掌造りの家は見たところ、農家のようであった。
 信心深い家の主人は、二人の姿を見るなり快く迎えてくれた。

「今晩からふぶきそうですから、よろしかったら何日でもいて下され。」

 そう言って、主人は二人を母屋の裏手にある小屋へ通した。