円心は門まで見送った。空はまだ星がまたたいていたが、山の端には朝のかすかの匂いが感じられた。西に傾いた月に照らされて、無雲の白装束が明るく輝いて見えた。

 「お元気で。」

 「このご恩は一生忘れませぬぞ。」

 無雲は、合掌すると神妙な面もちで挨拶をした。そしてきびすを返すと、山道へと続く参道をすたすたと歩き出した。
 円心は本堂に戻り、読経をするためにご本尊の前に座った。

 『真の世界を知る旅・・・』

 若い円心は、胸の高鳴りをどうにも押さえることができなかった。気づいたときは外へ飛び出していた。

「無雲殿。待って下され。無雲殿。」
  朝焼けの秋空に円心の声がこだました。

 「和尚様、お許し下さい。」