円心はこの人はいったい何者なのかと思った。達磨を彷彿とするギョロッとした目つきは確かに印象的だが、ごく普通の山伏の格好をしている。この界隈で山伏の姿を見るのは、そう珍しいことではなかった。

 「あなた様はいったい何者なのですか。」

 「わしか。わしは、名を無雲と申す。」

 無雲はようやく自分のことを語りだした。
無雲は自ら役小角(えんのおづぬ)の末裔であると言った。
 役小角。修験道・密教の祖とされ、後に神格化されてしまっているが、西暦六〇〇年代に実在した人物である。続日本紀には、小角が呪術を用いる様をこう記している。
「・・・小角はよく鬼神を使い・・・もし鬼神が命に従わぬ時は、呪術をもってこれを縛った。」
 円心も役小角のことは知っていた。

「ならば、あなた様も孔雀明王に呪術でも授かったとでも言われるのですか。」

 「はっ、はっ、はっ。」

 無雲はこれには答えなかった。