「のう、円心殿。真(まこと)の世界を知る旅をしてはどうか。」

 円心は仮にも禅僧の端くれである。日々修行に明け暮れることが、己にとっての真理探究の旅ではないのか。

 「真の世界とは何ですか。」

「この世には不条理なことが多すぎる。いくさに次ぐいくさ。田畑は悪党どもに荒らされ、善人は泣きを見、盗人はのうのうと生きておる。だがのう、円心殿。」

 山伏は続けた。いろりの火があかあかと燃えている。

「人はみな裸で生まれ、裸で死んでいく。生まれつきの盗人などおらぬものじゃ。これもみな人のなせる業よ。人は望みあらば、盗人にも聖(ひじり)にもなれるものじゃ。だが悲しいかな、世の多くの者は人間の内に秘めたる真の力を知らぬ。知らぬが故盗人は盗人で終わる。来世でも、次の来世でも。」