「ならば・・・」

 山伏は煮汁をすすりつつ言った。

「ならば、なぜ民の苦しみを行って見て来ぬのじゃ。なぜ、民とともに苦しみを分かち合わない。わしは仏の道はわからぬが、説法は民の中へ入ってこそ生かされるものじゃないのかのぉ。」

 「!」

 円心は何かで頭を殴られたような衝撃を受けた。

『確かに、今の私は民と向き合ってはいない。私は、法のための法を学んできたのかもしれない・・・』

 そういう事は、後になってから考えればいいことなのかもしれない。しかし十八になる若い円心には、今の自分が許せなかった。