自分探しの旅

 その夜、二人のやや遅い夕食が始まった。

 「のう、円心殿。」

 山伏は、円心をこう呼んでいた。

「貴殿は、また何のために仏の道へ仕えようとなさるのじゃ。」

 円心は変わったことを聞くものだと思った。物心ついた頃から寺での生活しか知らない円心にとって、仏へ仕えるのは決まりきったことである。

「世の苦しんでいる民を救うのが、仏の道です。」

 円心の返事は現代風で言えば「優等生的な答え」ということになるだろうが、本気でそう考えていた。まださめやらぬ南北朝の戦乱は、当時の民衆へ苦しみと疲弊を与えていた。それを証拠に、こんな山深い村里にもそのことは伝わっていた。