自分探しの旅

 三日後。
 山伏の体調は、厠へ一人で歩いて行けるまで回復していた。どうやら後遺症はないらしい。円心は、一人留守をあずかる身であったが、日中は几帳面に日々の仕事をこなしていた。

「山伏殿、今日は思いのほか、差し入れが入りましたぞ。」

 托鉢から帰った円心は、干し魚を見せながらにやりと笑った。円心は戒律で魚は食さなかった。それは山伏のためにと村人から分けてもらった物だった。

「その『山伏殿』は止めていただきたい。」

 山伏は苦笑しながら、床から半身を起こした。
 円心は、健気あふれる青年であった。困った人あらば救うのが仏の道であると思っていたし、そのためなら厳しい修行も厭わないという想いもあった。門前で倒れていた山伏を介抱するのは、円心にとって至極当然のことであった。だが、まだ山伏の素性は聞いていない。名前すら知らない。山伏殿と呼ぶほかなかった。