時はまだ南北朝の火種がさめやらない室町時代。
 信濃の國の山深い寒村に臨済宗の一派の流れをくむ十禅寺はあった。
 その男は寺の門の前でうずくまるようにして倒れていた。修験道のそれとわかる白装束は、埃と垢にまみれていた。外傷はなかったが、顔には衰弱の様相が見てとれた。年の頃は三〇過ぎだろうか、円心は自分より一まわりくらい年上に見えた。

「ほおってはおけないな。」

 円心はそのやせ細った山伏の躰を軽々と抱きかかえると、寺の中へ歩き出した。