「そうだ。由香里ちゃんのも書いといてやろうか。」

 龍仁は例の気前の良さでそう言った。龍仁にとっては前世のことなどごく日常的なことなのだろう。しかし今度出てきたのは、人の顔ではなく文字だった。色紙にはこう書かれていた。

〈円心の師、天寿道人なり。〉

「本人がいれば顔を描けるんだけどね。そうか、由香里ちゃんは京介の師匠さんだったのか・・・どうりでね。」
 龍仁は意味ありげに笑った。

「えっ、由香里が師匠だって?」
 
 京介は、「実はこの人が君の本当の母さんです」などと突然言われて出生の秘密を明かされたときも、こういう複雑な気持ちになんだろうと思った。
『師匠というのはまいったな。せめて兄妹ぐらいにしといてほしかったよ。』
 そう思いながらもしっかり者の由香里が師匠だと言われて、思い当たる節がないわけではなかった。