かつて龍仁から前世療法を受けたときもそうだった。京介には他に選べる選択肢がなかった。どうなるかわからない・・・龍仁にしてそう言わせる言葉には、あまりにも重いものを感じた。だがみすみす存在が消えていくままに身を任せるわけにもいかない。高所恐怖症の人間が、崖っぷちに立たされた心境だった。下には深遠などこまでも深い渦が口を開けて待っている。あと一歩・・・あと一歩を踏み出すしかなかった。

 「来世療法」はその晩おこなわれた。吉村と由香里は席をはずして、龍仁と京介の二人だけになった。京介はゆったりとしたソファーのいすに腰掛けた。目の前のテーブルには持ってきた大黒天が置かれている。
「それじゃあ、準備はいいな。」
 龍仁はそう言うと向かいのいすに座り、小笛を奏で始めた。
(ピューロロロー)
 美しい笛の音はあたりの空気を包み込んでいく。京介は半眼で大黒天を見ている。その大黒天の姿が、心の大黒天と重なっている。そして笛の音の一つ一つが心の奥深くへと入り込んできたかと思うと心の大黒天は突然まばゆいばかりの光を放ちだした。・・・