「それは恐怖からくるんだ。人間を含めて生き物にとって未知なる物は恐怖に他ならない。実はその恐怖の先に未来が見えてくるんだ。」
 京介は聞きながら、大黒天を思い浮かべていた。大黒天は未来を見通せる力を与える代わりに、恐怖を克服する力を要求する。
「恐怖の先にある扉なんか誰も開きたくないに決まってますよね。」
 吉村はそう言って首を引っ込めておどけた顔をしてみせると、つまみを口にした。
「開きたくて開くんじゃなくて、扉の向こうの自分、つまり来世の自分が開くんだ。」
 龍仁はそう言うとコップに残っているビールを一気に飲み干した。
「扉は未来から過去へと常に一方方向にしか開けられない。来世の自分と通じる条件は、来世の自分が自ら扉を開けようとしているかにかかっている。」
「それで京介さんの場合、来世の自分が扉に手をかけたというわけですね。」
「うん。後はどうなるかわからないが、とにかくやってみるしかないだろう。いいか、京介?」
「・・・」