三人は風呂から上がり、旅館の浴衣に着替えると部屋へ入った。そこへ女将姿の由香里が、ビールとおつまみを持って入ってきた。
「さ、お風呂上がりに一杯どうぞ。」
 由香里には兄弟はいなかった。もし京介との出会いがなければ、若い女将としてこの歴史ある旅館を切り盛りしていたに違いない。京介は応接のテーブルの上に小鉢を置く由香里の姿をじっと見ている。前世からの因縁と言ってしまえばそれまでかもしれない。だが先の見えない自分に一途なまでもついていこうとする姿に、京介はあらためて胸の高まりを感じずにはいられなかった。そしてその想いは来世において別の形となって現れてくるとは、このときの京介には知る由もなかった。
 三人はゆったりとしたいすに腰掛けると、由香里がついでくれたビールを飲んだ。
「ところで龍仁さん、どうやって来世に行くんですか。ひょっとして来世療法とか。」
 吉村が聞いた。
「まあ、そういうことになるだろうか。でも前世療法とはちょっとわけが違う。人間の細胞の一つ一つは過去の記憶が遺伝情報として残っている。前世療法の場合、その記憶を心の深層にまで行ってたぐり寄せることなんだ。しかし来世の記憶となると体のどこを探しても最初からない。ないが、動物の中には近い未来を予知できるものがいるのも事実だ。」
「地震の前触れを知るナマズやネズミなんかですか。」
「そうだ。それらはもちろん本能的なものなんだが、なぜ予知できるかわかるか吉村君。」
「うーん。」