「幽玄は室町時代に一度掛け軸を奪うことに失敗している。おそらく心眼が開いている吉村君がいることが、幽玄の生きている未来では何か都合が悪いのかも知れない。しかしどうもその失敗以来、今度は京介に矛先が向けられているようだ。それも現世の京介に。」
『矛先が自分に向けられている。』
しかも敵は来世にいる。ほんの少しの隙を見せればそこをこじ開けて入ってくる。京介はもはや打つ手がないように思われた。
「後は存在が消されるのを黙ってみているだけなんですか。」
「いや、一つだけ方法がある。」
 龍仁はふきだす顔の汗をタオルで拭った。
「来世に行くことだよ。」
「来世に行く・・・」
「そう。来世に行ってほしいんだ。できれば俺がそうしたい所なんだが、残念ながら幽玄の来世の時代に俺は生まれていない。掛け軸を奪おうとしたところをみると、吉村君はその時代に生まれているようだ。でも、吉村君はまだ来世の自分と通じていない。」
「残るは僕しかいないと・・・」
「うん。来世を見てきて、何か手がかりを探してきてほしい。」
 京介は湯ぶねに長くつかりすぎたためか体が火照りだした。しかしその火照りは別のところから来るのがわかった。