ときわ旅館に着くと、京介たち男三人は温泉に入った。露天風呂では大きな岩がごつごつと並んでそれを囲むように木立が茂っていた。湯ぶねにつかり上を見上げると、梢の先から抜けるような青い空がのぞいている。京介にとってそんな青空を見たのは何年ぶりだろう。円心の時代にも空はそこにあった。あまりの変化の連続だった今の京介にとって、いつの時代にも変わらずにそこにあるというだけで、なにか安心するものがある。
「さっき小笛を吹いていてわかったことがあるんだ。」
 湯けむりの向こうで龍仁が言った。
「京介の存在のつなぎ目をほどこうとしたり、吉村君をつけていた人物が誰なのかがね。」
「誰なんですか?」
 京介と吉村は同時に声を発した。
「幽玄だよ。」
「えっ?でも幽玄は今この世に生まれていないんじゃなかったんですか?」
 今度は吉村が聞いた。
「うん。幽玄は確かにこの世に生まれていない。でも間違いなく幽玄だ。来世の幽玄の仕業だよ。」
 湯けむりの中、龍仁の目が鋭く光ったように見えた。
「・・・そんなことができるんですか?」
「ああ、幽玄ならね。しかもやつは心眼が開いているわけじゃない。」
「じゃあどうやって?」
「幽玄は心眼は開いていないがとてつもない能力者であることには変わりない。自分の側に心眼が開いた人間がいればその人物を通して過去に入り込むことだってできるだろう。」
「過去に入り込む・・・」
「そう。読心術を使って、まずその人間の心の中を覗く。そして暗示をかけるわけだ。恐怖を植え付ける暗示をね。」
「・・・」