やがて龍仁は我に返ると神主に言った。
「吹いてみてもよろしいですか。」
「どうぞ。」
龍仁は笛の心得があったわけではないが、無雲としての自分が笛を覚えていた。目をつぶり小笛の穴に指をあてると、息をためて一気に吹き始めた。
(ぴゅーろろろー)
この世の物とも思えないうっとりとした美しい音色は、静かな部屋に広がった。あたりを幻想の世界へと導いていくかのようであった。京介に異変が現れたのはその時だった。いつしか京介はあの智海寺での無雲と幽玄の対決のシーンの中にいた。
兄は真言を唱え、弟は笛を吹く。互いの気と気がぶつかり合った。死闘はいつ終わるともなく続いたが、やがて精も根も尽き果てたのか、どちらからともなくその場に倒れ伏し、二人とも気を失ってしまった。春の陽気の中静寂があった。宗純は半ば放心したように掛け軸を握りしめたままその場に立ちつくしている。円心は朦朧とした意識の中、京介としての自分を反芻していた。京介としての来世の自分に気づいた円心は、深い闇の中に永遠の光を見た。
『えんしん・・・えんしん・・・』
『?』
『えんしん・・・気をしっかり持って。』
「吹いてみてもよろしいですか。」
「どうぞ。」
龍仁は笛の心得があったわけではないが、無雲としての自分が笛を覚えていた。目をつぶり小笛の穴に指をあてると、息をためて一気に吹き始めた。
(ぴゅーろろろー)
この世の物とも思えないうっとりとした美しい音色は、静かな部屋に広がった。あたりを幻想の世界へと導いていくかのようであった。京介に異変が現れたのはその時だった。いつしか京介はあの智海寺での無雲と幽玄の対決のシーンの中にいた。
兄は真言を唱え、弟は笛を吹く。互いの気と気がぶつかり合った。死闘はいつ終わるともなく続いたが、やがて精も根も尽き果てたのか、どちらからともなくその場に倒れ伏し、二人とも気を失ってしまった。春の陽気の中静寂があった。宗純は半ば放心したように掛け軸を握りしめたままその場に立ちつくしている。円心は朦朧とした意識の中、京介としての自分を反芻していた。京介としての来世の自分に気づいた円心は、深い闇の中に永遠の光を見た。
『えんしん・・・えんしん・・・』
『?』
『えんしん・・・気をしっかり持って。』

