「え?・・・それじゃ、まさか・・・」

「そう。そのまさかだよ。存在が消えたのは俺じゃなくて、京介。君の方なんだ。」

「・・・」

「少なくとも俺はちゃんと存在していた。京介にはそれが見えてなかったようだけどね。」

 京介は龍仁が言っていることが、にわかには信じられなかった。頭の中では考えを巡らそうとするが、恐怖心を回避しようとする心がそれを阻止しようとしている。龍仁がそんな京介の思考を補った。

「たて糸とよこ糸はしっかりつながれているのがふつうだ。しかし心眼が開いた「京介」という一本のたて糸は、どうやらよこ糸のつなぎ目からほどけようとしたらしい。」

「そうすると、このままほどけてしまっていたら・・・」

「うん。次々と連鎖的によこ糸のつなぎ目がほどけていったと思う。つまり京介にしてみれば次々と人が消えていくということに・・・」

「・・・」

 京介はお茶を持つ手がふるえている。糸がほどけるように次々と存在が消えていく・・・そういうことがあってもいいものだろうか。存在が消えるということが何を意味するのか。その先に何が待っているのか。想像することすらできなかった。

「それであの小笛の存在が、龍さんとのよこ糸を再びつなぎとめた、ということなんですね。」

「そう。ただ、わからないこともある。」

「?」

「吉村君は京介よりも前に心眼が開いているんだが、今回のような存在が消えていくような体験はしていないんだ。」

「その通りなんです。それに私をつけていた人物なんですが、どうも京介さんの想像の産物ではない。」
とすると・・・」

「うん。誰かの存在が見え隠れしている。」

「前世で龍さんが無雲という山伏だった時の双子の兄では?」

 京介は誰かの存在と言われて真っ先に思いつくのはあの黒衣の行者だった。