「えっ?でも確かに龍さんは僕の前から姿が消えたんです。どこかにいなくなったと言うよりも初めから存在しなかったというか・・・間違いないです。ちゃんとこの目で龍さんのオフィスに行って確かめたんですから。ねぇ、吉村君。」

「ええ。」

 吉村は、龍仁の方を横目で見ながらお茶を一口すすった。

「京介、この世の存在って何だと思う?」

「・・・」

「それは、例えばこの一枚の布のようなものなんだ。」

 龍仁はそう言うと、テーブルの上にあった白いおしぼりを広げた。

「全体としては布なんだが、よく見ると無数のたて糸とよこ糸からなっている。たて糸の一本一本がこの世に生きている人間一人一人だとする。そうすると、よこ糸はこの世の一瞬一瞬だ。そして決して交わることはないのに、まわりのたて糸の存在を知ることができるのは、よこ糸があるからなんだ。」

 龍仁は白いおしぼりを見つめながら話を続けた。

「ふつうの状態だとたて糸とよこ糸は、ずれることなくしっかりと結びついている。」

『ふつうの状態・・・』

 京介は龍仁がなにを言わんとするのかが、わかってきた。

「ふつうでない状態は、心眼が開いている状態と言うことですね。」

「そう。」

「でも、龍さんは心眼が開いていないんじゃなかったんですか?」

「うん。俺は京介や吉村君をとおして自分の前世のだいたいのことは知っている。でも心眼は開いていない。俺の心眼が開くきっかけは小笛なんだ。それは今まで見つけようとしたが見つからなかった。」

じゃあ、なんで・・・」

「・・・」

 龍仁はそれには答えず、お茶を口に運んだ。