「うん・・・そのことなんだが・・・」

 助手席に座っている龍仁は、いつになく口が重い。黒っぽいジャンパーの内ポケットからたばこを取り出すが、火はつけない。言葉を選んでいる姿がありありととれた。

「どこかお昼を食べによりませんか。話はそこでということで。」

 吉村は機転のきく男だった。二人の会話に割り込んだが、それが車を運転している京介を気遣ってのことだとは、京介にもわかった。

『どうやら、心して聞かないといけないことなんだな。何が引き金で恐怖心が生じるかわからない。』

 そう思う気持ちが、常に冷静な自分を要求しているのがわかった。
 
 四人が阿蘇の郷土料理屋の店に入ったのは、一時頃だった。座敷の小さい個室が空いていた。

「まずは飯にしよう。話はそれからだ。」

 龍仁はそう言うとどっかりと腰を下ろした。料理を食べている間も終始にぎやかに話が弾んだが、だれも「例の話」に触れようとしない。何か触れてはいけない雰囲気があった。
 やがて食べ終わると龍仁はお茶のおかわりをした。そして、お茶を飲みながら話を切りだした。

「京介。落ち着いて聞いてくれ。」

「・・・」

「実は、俺は消えちゃいないんだ。」