円心に言われるまでもなかった。京介は由香里を部屋の中へ入れ、今まで自分に起こった一切合切の出来事を由香里に話した。由香里はあまりにも非現実的な話に言葉を失っていた。

「・・・とても信じられないことなんだけど本当なんだ。」

 目の前の京介はいつになく真剣な表情をしている。

「・・・私、信じるわ。」

「ありがとう。じゃあ僕が阿蘇に行ってる間、こっちで待っていてくれ。由香里を危険な目にさらすわけにはいかない。」

「ううん。私もいっしょに行きます。」

「何言ってるんだ。今話しただろう。どんなに危険かって。吉村君の彼女だって・・・」

「危険だからこそいっしょに行くのよ。私、イヤだわ。いつ無事で帰ってくるかわからないあなたを、一人でただじっと待ってるなんて。」

「・・・」

 かつて円心だった自分が放浪の旅に出た時、帰りを待ちわびながら死んでいった天寿和尚の気持ちはいかばかりのものか。京介はそのことを思わずにはいられなかった。

「二度も置いてきぼりは許しません、円心。今度は私も連れて行きなさい。これは師匠の命令です。」

 ハッとする京介に由香里はおどけたように笑ってみせた。笑いながらも目にはあふれてきたものが光っている。

「何があっても後悔しないから・・・」

 京介はそれ以上なにも言えなかった。羽田発の最終便は、二人を乗せて九州へと向かった。