『とにかく龍さんの所へ行ってみよう。』

 京介は急いで服を着るとコートのポケットに大黒天を突っ込み、部屋を出た。
 京介が例の新宿のビルの前についた頃は、正午頃だった。その龍仁のオフィスがある真新しい雑居ビルからも、次々とネクタイ姿のビジネスマンがお昼を食べに出て行くところだった。京介は彼らと入れ替わりに一人エレベーターで六階へと上っていった。エレベーターを出てオフィスの扉の前に来たとたん、京介は呆然と立ちつくした。

「ない!」

 昨日まであった龍仁のオフィスが、そっくりそのままないのである。代わりに扉には法律事務所の名が書かれてある。神隠しに遭うとはこういうことを言うのであろう。京介は胸の高まりを押さえることができなかった。

『落ち着け。落ち着け。』

 自分にそう言い聞かせながら、ポケットの中の大黒天を握りしめた。一階へ下りてもう一度確かめてみる。だがビルのテナントが書かれているプレートには、どこにも龍仁のオフィスの名はなかった。

『存在が消えている・・・』

 京介はそう思ったとき、吉村のことを思い出した。急ぎ昨日もらった名刺を取り出して吉村へ電話してみる。

「吉村君。僕だ、伊地知だ。実は・・・」

 京介は、自分の置かれている状況を詳細に吉村に話した。