次の日。
　この日は土曜日で会社は休みだった。京介は充電器に差している携帯の呼び出し音に起こされた。

「ん？」

「おはよー。と言っても、もう十時半だけどね。」

　電話の声は由香里だった。

「ああ。もうそんな時間か。」

「その声からすると、さてはまだ寝てたな。夕べまた飲んでたんでしょう。」

　電話の向こうの由香里の声は、いつものように明るかった。

「ねぇ、今日見たい映画があるんだけど、どぉ？ほら前から言ってたヤツ。」

「・・・」

　そこには日頃と変わらぬ由香里がいた。しかし、頭が目覚めてくるにつれて、京介の心の中には、昨夜起こった出来事が支配してきた。

「ねぇ京ちゃん、聞いてる？どうなの？行くでしょ？」

「昨日のことが夢ならばいいのに」と思うのだが、あまりにも鮮明に残っている記憶の数々を、京介は打ち消すことができなかった。

「あっ、いや悪いけど、今日の午後から急の仕事が入ってるんだ。」

　京介は交通事故でフィアンセと死に別れた吉村のことを思いだした。京介には今由香里と会って、何事もなく過ごせる自信がなかった。