「危ない!」

 それはあまりにも突然だった。対向車線を走っていた白っぽい車が、十字路にさしかかった所でいきなり、ウィンカーも出さずに、直進している吉村たちの車の前を右折してきた。吉村はブレーキを思いっきり踏んで、ハンドルを右に切った。

(キュルルルル・・・)

 タイヤのなく音が響く。車はぶつかる寸での所で止まった。京介は心臓が飛び出さんばかりになった。

「ふーっ。」

 吉村という男は、こういう場合でもどこまでも冷静になれるらしい。目を閉じ一つ息を深く吐くと、何事もなかったかのように走り出した。

「全く何考えてるんでしょうね、さっきの車は。」

 吉村はそう言ってちらっと京介の方を見たが、京介はまだ膝がガクガクなっている。いつしか膝の震えは無意識にもあの恐怖心へと連動していた。京介の心の中に呼び覚まされた恐怖心は車のサイドミラーに光ってうつる後続車へと向けられた。