話には聞いていた。
旧帝国海軍中尉。終戦の年、昭和二十年八月某日。広島の呉の軍港からフィリピンへ向かった潜水艦は、沖縄のはるか西の海に散った。出征の日駅のホームに見送りに来ていた当時の祖母に、
「さち子、七生ぞ、今度生まれてくるときもいっしょになろうな」
―そう言い残して去っていったという。これが、昨年亡くなった祖母からよく聞かされた、由香里の知る唯一の祖父のエピソードである。
七三に分けられた髪に海軍の軍服を着て、遠くを見つめるさっそうとした風貌。由香里が九州の実家の仏壇の遺影でしか見たことのない祖父の姿が、そこにあった。
旧帝国海軍中尉。終戦の年、昭和二十年八月某日。広島の呉の軍港からフィリピンへ向かった潜水艦は、沖縄のはるか西の海に散った。出征の日駅のホームに見送りに来ていた当時の祖母に、
「さち子、七生ぞ、今度生まれてくるときもいっしょになろうな」
―そう言い残して去っていったという。これが、昨年亡くなった祖母からよく聞かされた、由香里の知る唯一の祖父のエピソードである。
七三に分けられた髪に海軍の軍服を着て、遠くを見つめるさっそうとした風貌。由香里が九州の実家の仏壇の遺影でしか見たことのない祖父の姿が、そこにあった。

