『ん?』
心の中には奈落へと至る穴が開いている。それを修復しようと躍起になっている時、背中に誰かの視線を感じた。
『見られている・・・』
そんなはずはなかった。心の中をのぞき見など、できようはずがないではないか。しかしその鋭い視線が、心に開いた穴をとらえている。京介は手のひらに汗を感じた。後ろを振り向いて視線の主を確かめることもできたはずだった。でも今は恐怖の方が勝っていた。後ろを向きたくてもできない。京介はまるで金縛りにでもかかっているかのように体をピクリとも動かさず、息を殺して目だけで辺りの様子をうかがった。前の席にはサラリーマン風の中年男性が、膝にカバンを抱えてうとうとしている。立っている左隣は、ダウンジャケットを着た背の高い大学生風。右は白いバッグを持ったOL・・・そこには何ら日常と変わらない風景があった。もちろん誰も自分に気を止めている風でもなかった。みな一応に、疲れた顔で帰宅の途に着こうとしている。京介は窓ガラスにうつる自分と向き合った。
心の中には奈落へと至る穴が開いている。それを修復しようと躍起になっている時、背中に誰かの視線を感じた。
『見られている・・・』
そんなはずはなかった。心の中をのぞき見など、できようはずがないではないか。しかしその鋭い視線が、心に開いた穴をとらえている。京介は手のひらに汗を感じた。後ろを振り向いて視線の主を確かめることもできたはずだった。でも今は恐怖の方が勝っていた。後ろを向きたくてもできない。京介はまるで金縛りにでもかかっているかのように体をピクリとも動かさず、息を殺して目だけで辺りの様子をうかがった。前の席にはサラリーマン風の中年男性が、膝にカバンを抱えてうとうとしている。立っている左隣は、ダウンジャケットを着た背の高い大学生風。右は白いバッグを持ったOL・・・そこには何ら日常と変わらない風景があった。もちろん誰も自分に気を止めている風でもなかった。みな一応に、疲れた顔で帰宅の途に着こうとしている。京介は窓ガラスにうつる自分と向き合った。

