「あっ!」

 円心と宗純は、その姿を見て思わず息をのんでしまった。それは紛れもない無雲の姿だった。その姿は、目の前で今まで親しく話をしていた無雲と、全く同じであった。呆気にとられている円心には、状況が飲み込めなかった。

「円心殿。その掛け軸を渡してはならぬぞ。」

 庭先の無雲はそう言うと、お堂の方へつかつかと歩み寄ってきた。円心はおそるおそるもう一度目の前に座っている無雲を見た。

『そうだったのか。』

 円心はようやく術からほどかれた。目の前の無雲は偽物だったのである。