円心はその名前を何年ぶりに耳にしただろうか。あの日阿蘇の山頂で別れて以来、もうかれこれ二〇年近く会っていない。円心は様々な想いが込み上げてきて、懐かしさでいっぱいになった。

「円心様、あの方は一体誰なのですか。」

「私の旧知の友人でな。私がちょうど宗純と同じくらいの歳に寝食を共にした仲だ。無雲殿からは人生についての様々なことを教わった。私と無雲殿は真の世界を旅する仲間なんだよ。」

 そう言って寺の門の方へ歩き出した。円心の背中に宗純の言葉が響いた。

「円心様、待って下さい。どうも私には胸騒ぎがしてならないのです。その・・出来ればお会いにならない方がよいかと。」

「何を言っておるのだ。無礼なことを言うでない。」

 円心は珍しく機嫌を損ね、宗純の忠告を振り払った。

『悪いことが起きなければよいのだが』