「いさりびの」・・・あの阿蘇の雲海の中からいずる光は、まさに海をさすらう漁り火。魚ならぬ魂を呼び込む灯火だった。

「あかきみたまにひとのよの」・・・この世のものとも思えない巨大な玉。それは円心にとって魂の存在そのものだった。

「ともというべの あそのいでたち」・・・「いう」は「夕」と「言う」の掛詞。「あそ」は「阿蘇」であって「明日」でもある。いつしか「もう一人の自分」は様々な想いを胸に抱きつつ旅立とうとしている。

 円心は書きながら、瞼の裏に今もなお鮮明に焼き付いている光景を思い浮かべていた。