一ヶ月経ったある日のこと。宗純は暇を見つけては傷んだ寺のあちこちを修繕してまわっていた。その甲斐あって智海寺は、少しずつ寺の体裁を整えつつあった。

「円心様。本堂が寂しすぎますな。」

 智海寺の本堂には何もなかった。あるのはご本尊が置かれていた台座と、その前に座布団が一つ、それだけだった。どういう経緯かは分からぬが、円心がこの寺に赴く前に、誰かが寺の中の物を持ち去って行ったらしい。円心は毎日そのがらんとした本堂で仏事を行っていた。

「そう言えばそうだのう。」

 円心は宗純の言葉に、今思いついたかのように頭をなでた。