自分探しの旅

 二人の生活が始まった。このとき智海寺は寺というよりも草庵に近かった。土塀はぼろぼろに崩れ、穴が空いている。屋根は所々瓦が剥がれ、その土くれたところから雑草が生えている。雨の日はあちこち雨もりした。盗人でさえ寄りつかぬ様だった。

 時々見るに見かねた村人が寺の修理にと金子を置いていくのだが、そのたびに円心は貧しい人々に分け与えたものだった。困った人あらば、自分で出来ることは何でもした。説法が必要な者には説法を説いてまわり、病人が出て人手が足らなくなれば畑仕事を手伝った。円心は文字通り民衆と共に生きていた。