円心は若者と同じ時間、同じ空間を共にすることで若者の気持ちを理解しようとしていた。ゆっくりと目を閉じ、心眼でもって若者の心を汲み取ろうとしていた。
　その時である。忘れかけていた何かが脳裏をかすめ、あの不思議な感覚が蘇ってきた。心の暗闇に灯る一筋の光が見えたかと思うと、それはいつしかあの時の大黒天の姿になっていた。大黒天は何かを語りかけようとしている。と同時に円心は、若者の心の中を垣間見た。突然襲ってくる強い感情。
悲しみ、別れ、やり場のない孤独感と絶望・・・

「ううっ。」

　堰を切ったように一気に押し寄せる感情の濁流をよけきることが出来ず、円心は思わず嗚咽を漏らして涙してしまった。