「死なせて下さい。」

 なおも抵抗し進み続けようとする若者を必死に捕まえ、もみ合った。

「仏に仕える身でありながら、生命を粗末にしてはならん。」

 円心は思いっきり若者の頬に平手打ちを食らわせた。見る見るうちに赤くなった頬を押さえ、若者は泣き崩れた。円心はびしょ濡れになりながら、若者を抱きかかえるようにして智海寺へと戻った。
 春の陽気とはいえ、ずぶ濡れになってはまだ寒さがこたえる。

「風邪をひかんうちに早う。」

 本堂につくと円心は若者に着替えを渡し、急ぎ濡れた服を脱ぎ始めた。若者は暫く立ちすくんでいたが無言のままゆっくりと着替えを済ますと、所在なげにその場に正座した。