『もうあれから二十年になるか。』

 円心は、年の頃は二十歳くらいのその若い僧を見て、寺を飛び出した頃の自分を思い出した。
 その時。何を思ったのかその若者はすっくと立ち上がり、湖面に向かって歩き出した。円心がそのただならぬ事態に気づいたのは、若者がそのまま真っ直ぐ湖の中へ進んで行ったときである。湖面の下に透き通って見える泥の中に足を踏み入れ、そのぬかるみで歩幅が大股になってきた。周りには所々水草が群をなしている。

『入水自殺・・・』

 若者が腰まで水につかったとき円心はそう思い、とっさに駆けだしていた。

「待て。はやまるでない。」

 そう言って、肩に掛けた托鉢の袋と手に持っていた杖を傍らに放り、水の中へと飛び込み、若者のもとへと駆けつけた。