あるうららかな春の日。いつものように托鉢に、琵琶湖のほとりを通りかかったときのことである。道端には菜の花が延々と咲きほこり、小鳥たちのさえずりが天高く聞こえていた。風ひとつない湖面は穏やかに静まり返り、陽の光に照らされてきらきらと輝いている。円心は四十歳になっていたが、若い頃からよく動かしてきた体は丈夫で、足どりも軽かった。
 
 ふと見ると、湖面のふちに細く続いている道端の向こうに誰かがいる。近づくにつれ、旅すがたの若い僧が一人草むらに腰を下ろしているのが見てとれた。