伊地知京介にはことの成り行きがどうしても理解できなかった。
 いや、理解することの方が無理があるのかもしれない
 それは、ただすることもなく、ひとりアパートでぼんやり過ごしている夜のことだった。
 会社に特に不満があるわけでもなかった。新卒で入社して五年目の今年は早くも二十七歳になる。ビジネスマン向けの手帳などを企画販売する従業員五十人くらいの会社で、京介はそこの総務部だった。特別な出世意欲があるわけでもなく、独立して会社を興そうといった野心をもっているわけでもなかった。ただ五年たって仕事がおもしろくなってきたというより、先が見えてきて存在感が薄くなってくるように感じていた。