どうやら俺は、主人公になってしまったらしい。

 昼過ぎに寄ったボロボロのアパート。年下の彼女の部屋で、カップヌードルの3分間を持て余していた俺に向かって、雅美がネイルで派手に着飾った爪を見せてきた。
 正確に言うと、手に握っている携帯電話のディスプレイを、得意気に。


「この小説はね~、あたしと亮の出会いから始まって、ラブラブな毎日の中で起こるいろんなことを書いてるの。親友の、香奈も出てるんだよー」

 いかにも男に頼りきっているような媚びた声を聞き流しながら、俺はクリアテーブルに肘をついて、素早く画面中の小さな文字に眼球を動かす。
 雅美のおしゃべりによると、最近、女子たちの間ではホームページを作り、オリジナルの小説を書くのがブームになっているらしい。
 許可も出していないのに勝手に主人公へと抜擢されてしまった俺は、小説の中では雅美のことを愛しているらしかった。