「至極の一品チームの『最高のスイートポテト』、堪能しました。では垂涎の逸品チームの『さつまいも料理』をお願いします」

司会者が促すと、地味な色遣いながら高級な着物に身を包んだ初老の男性が立ち上がる。

「ふむ、至極の一品チームの『芋を煌びやかに演出する』という主張に対する私の答えがこれだ、頼む」

次々に運びこまれる料理を確認するや、審査員は目を丸くした。

「え、これが、『垂涎のさつまいも料理』…?」
「まさか…これはただの」
「焼き芋じゃないか!」

色めきたつ審査員達を一瞥して微かに笑い、垂涎の逸品チームの其の男は言った。
「ご感想は食べてから伺いましょう」

「か、川原先生がそう仰るなら……」
審査員の一人が恐る恐る皿に盛られた芋を二つに割る。

「な、なんだこれは!」
「黄金だ!黄金色に輝いているぞ!」
「ああ、この芳醇な香り!」
「ふほっ!このまろやかな甘みはどうです!」
「ワシはどうも焼き芋のパサつきが苦手だったが、これはペーストのようじゃ」
「滑らかな舌触りと後をひく嫌味のない甘さ!おおっ、あつつ!」

審査員たちの絶賛に、至極の一品チームは歯噛みする。
「やられた!安納黄金だ!」

「安納黄金?」
至極の一品の担当者の言葉に耳ざとい審査員が聞き返すと、満足そうに頷いて垂涎の逸品の担当者が口を開いた。

「左様、これは安納黄金という品種のさつまいもだ。其の身は名前のごとく黄金色。焼き芋にすればとろけるようにほぐれ甘みに優れる」

「し、しかし、この上品な和菓子のような甘みがそれだけで?」

「もちろん、有機栽培のものを糖度で選別し備長炭で時間をかけて焼いてはいる。しかしそれはあくまでほんの手伝い。すべては素材本来のうまさだ」

そう言って至極の一品チームを睨むと、担当者は拳を握り下を向いていた。
其の顔が赤く染まっているのは、きっと窓から入る夕焼けのせいではなかった。

「愚か者!旬の素材の味を生かすことこそ料理の根本!手を加えることが最善と考えるその意識がすでに愚であると何故分からん!!」

響き渡る怒声。甘い香りと夕焼けの赤に染まる会場を一転して静寂が支配する。