気の抜けた声が屋敷に響く。
 晶が声のしたほうに目をやると、そこには二十代後半と思われる赤毛の男がいた。
 手には布で包まれた物を持っている。男に気付くと少女は姿勢を正す。

「大樹さん!」

 どうやらこの男、大樹というらしい。大樹は布で包まれたそれを手で弄びながら、晶に近付いて来た。

「君が、ミキ君が報告した適合者だね?」
「適合者?何の事だ、俺はコイツに無理矢理連れてこられただけだ。説明しろよ。」
「お前!大樹さんになんて事を・・・!」

 ミキが身構えると、大樹が呑気そうな声で止める。

「いいの、いいの~ミキ君。確かに、いきなり適合者なんて聞きなれない言葉言われたら戸惑うよね~。んじゃ、まあ簡単に説明しよう。君、なんて名前?」
「何で訊くんだ?」
「別に君がいつまでも『君』って呼ばれたいんならいいけど、僕的には、名前を教えてもらった方が嬉しいけどね~」
「ふん。分かったよ、晶、神野晶だ」
「それじゃあ、晶君。適合者とは、ある特殊な能力を持っている者の総称なんだ。君は、このミキ君が持っている鎖が見えただろう?」

 晶は頷く。

「その鎖は、その特殊な能力を持っている者しか見ることが出来ない代物・・・つまり、君が適合者である証なんだ。」

(証?特殊な能力?何言ってやがるんだ?こいつ等、頭おかしいんじゃないのか?)

「で、適合者だったら、なんだってんだ?まさか、さっきのみたいな化け物に一生、命を狙われる訳か?」

 晶が冗談半分に訊くと、大樹は晶の期待を裏切る返答をした。

「その通り、君の言う化け物に一生、追い回されるはめになる。」