―今朝(早朝)―

 晶が朝食を作るために階段を降りてくると、大樹の声が聞こえた。
 不思議に思って、大樹の声のする方を見ると、大樹は受話器を片手に真剣な顔で話し込んでいた。集中しているのか、こちらには全く気付いていないようである。

(話し込んでるのか…こんな朝早くに何の話だろ?でも、どんな内容にしろ邪魔するのは悪いな…。さっさと朝食作るか)

 晶が立ち去ろうとしたその時である。

『まさか、そんな一族全員殺されたんですか!?』

 頭にこの一言が妙に引っかかった。
 晶は、キッチンに向かうのを止め、階段に隠れる。聞いてはならない気はするが、それよりも晶の好奇心は強かった。隠れる位置が良かったのか、丁度良く会話が聞こえる。

『だって、いくら四人だけとは言え、式使いですよ!?一人も生き残らないなんて…』
『……』

『分かりました。すいません、感情的になって…隣町の式使いがいなくなったと言う事は、今後は次が来るまで私達が見回ると言う事ですね?』
『……』

『はい。わざわざ報告、ありがとうございます…』

 大樹は受話器を置くと、しばらく身動き一つしなかった。

(今の会話は一体…隣町の式使いって?今、何が起きてるんだ!?)

 晶が、こんな不毛な考えをめぐらしていると、大樹がこっちに向かって歩いてきた。

(やっヤバイ!)

 晶は、急いで階段を上がっていく。しかし、それが命取りになった。

「あっ…」

 晶の足が空を切る。階段を踏み外したのだ。

ドタンッ!ドタドタッ!

 盛大な音をたてて晶は階段を転げ落ちる。

ドンッ!

 最後に、一階の床に見事な尻餅をつき、晶の目から自然と涙が出る。

「痛って~!」
「あ、晶君!?いつからそこに…?」
「あ、いや~…え~と」

 しばらく沈黙が続く。凄く居心地が悪い…と言うより聞いていた事がバレて気まずい。