「お、おい!ちょっと待てよ。電池、交換したはずだぞ!?」

 しかし、晶を裏切るように、懐中電灯の光は止まった。
 たちまち、小屋の中は完全な闇と化した。晶の焦りが頂点に達し、先程引けたばかりの脂汗が出始める。

「そ、そうだ。入り口から出よう」

 そう言うと晶は歩き出す。しかし、晶には、いくら歩いても扉に近づいていないように思えた。やっと晶の手がドアノブに触れようとした時である。

『ギョゴロロロ!』

 小屋中に獣とも、人間ともつかない雄叫びが響き渡る。我慢できなくなり、ドアノブを引くが、扉はビクともしない。晶は混乱した。入ったときは確かに、扉を押したはずである。しかし、出ようとして引くと開かない。次の瞬間、晶は理由を自分のすぐ横で見つけた。暗くて良くは見えないが、何か大きな物が扉にあたり、開くのを妨げていたのである。

 やがて、それが身体を登ってくる。辺りに鼻につく臭いが広がる。除除に晶の意識が朦朧としていく。

(ヤバイ・・・このままじゃ・・・・)

 晶が完全に意識を失いそうになったその時である。

「そこまでだ!」

 物置小屋に外の新鮮な空気が流れ込む。
 それと同時に、晶の身体の束縛が解ける。晶はその場に倒れこんだ。

「ゲホッゲホ・・・」

 晶が顔を上げると、一人の少女がいた。歳は同じくらいであろうか?紅色の髪をしていて、手には鎖のような物を巻いている。不思議な事に、その鎖はまるで意志を持っているかのように、蠢いていた。少女は晶に目もくれずに、一点を睨んでいる。

 その視線の先には、ローブとフードで姿を隠した人間がいた。しかし、両腕は途中から、黒々とした毛並みの狼へと変わり、紅い血を流している。少女は、良く通る声で怒りを露わにしていた。