――放課後――

「あ~、すっかり暗くなっちゃったな・・・」

 晶は一人、学校裏に向かいながら言った。手には安物の懐中電灯が握られている。
 時刻は六時過ぎ、この季節、もはや日が沈もうとしている。
 暫く行くと、目的地が現れた。

 木で作られた扉は、いたる所に黒いシミが出来、常に半開きで風に揺れている。
 その扉が入り口となる物置であった物は、晶が記憶していたよりも、傷みようが酷かった。

 取り付けられていた古い窓ガラスは、全て割れて地面に散らかり、ベニヤ板で作られた壁は、所々に歴史の跡をうかがわせる傷と穴が空いていた。
 晶は、その外見に少し、薄気味悪さを覚えながらも、扉に手を伸ばす。

「・・・!」

 晶は、扉に伸ばした手をとっさに引っ込める。誰かの視線を感じたのだ。
辺りを見回してみるが、誰の姿も無い。

(ま、まさかな・・・こんな所に誰も居る訳ないしな)

 しかし、そうは思ってみるものの、なかなか見られている感じは拭いきれない。

(な、な~に、ここを開けて、中を確認すればそれで済む事じゃないか、何を俺は戸惑ってるんだ?)

 そのうち、脂汗が出てきた。脂汗で滑る手を、晶は拭った。
 晶は意を決して扉の取っ手を押す。

 ギギー・・・

 軋む扉を開けると、そこは、ただの使われなくなった物置である。
 それを確認すると、晶から一気に脂汗が引いていった。

「な、なんだよ。何も無いじゃん。杏子の奴も怖がりだな~」

 晶は物置小屋の中に足を踏み入れる。何も無いと分かった以上、何も怖がる事は無いのだ。
 ベニヤ板の床は、晶が歩くたびにギシギシと悲鳴を上げた。
 晶が小屋の奥まで来て、戻ろうとすると。

 ギギー、バタンッ!

 小屋の扉が、いきなり閉まった。外からの光が遮断され、小屋の中が途端に暗くなる。残った光は、晶の手に握られた頼りない懐中電灯だけである。
 やがて、その懐中電灯の光も、頼りなく点滅し始めた。