しかし、主にはその方法が無かった。いや、正確には、失っていた。主は、思わず天を仰ぐ。しかし、そこには、黒ずんだ白い天井が無表情にあるだけで、答えを与えてはくれない。

 その時である。部屋の天井に大きな穴が空いた。穴の先は、暗く、何処まで続いているのか分からない。まるで、暗い地獄に続いているようである。

 しかし、主は動揺しなかった。主には分かっていたのである。あいつ等の使いが来たと・・・
 穴は、暫く沈黙していた。しょうがなく、主の方から話し掛ける。

「分かっている。僕を殺しに来たんだろう?僕は逃げも隠れもしない。殺るなら殺ってくれ・・・」

 主がそう言うと、穴から声がした。抑揚に無い、冷たく低い声である。

『何を言っている。抵抗の一つでもしてみたらどうだ?』

 思わず、主の口から笑いが漏れる。

『何が可笑しい?』
「ごめんね。僕は、仲間を増やせなかっただけじゃなく、自分の式も失ってしまい。もう、抵抗する力も無いんだ。」
『なるほど・・・』

 穴から聞こえてくる声は、そう言うと、少し間を開けて、続けた。

『では、式があれば、相手の首を取ってくると?』
「ああ、首でも何でも取って来てやるよ・・・」
『ならば、貴方に新しい式をあげましょう』
「何、本当か?」

 すると、答えの代わりに蛇の人形が穴から落ちてきた。

『貴方の能力は確か、魂の入った人形を操る事でしたね?これを使って、私に相手の首を持ってきて下さい。そうすれば、貴方の命、獲らないであげますよ』

 部屋の主は、蛇の人形を手に取る。蛇のプラスチック製の目は、本物のようにランランとしていた。