杏子は、持ってきた『学内限定あんぱん・デラックス』を開けると、食べ始めた。
 辺りに甘い匂いが漂う。
 暫く食べると、杏子は食べる手を止める。

「どうした?もう食べないのか?」
「ううん、そうじゃないけど・・・」

 そう答えると、杏子は黙り込む。
 辺りに、なんともいえない気まずい空気が漂い出した。

(居心地悪いな・・・)

「なんだよ?お前らしくない」

 少し考え込むようにすると、杏子はいきなり、とっぴよしのない事を言い出した。

「ねえ、妖怪って信じる?」

 暫くの沈黙が訪れた。流石に、マイペースな晶でもこれにはビックリしたのである。
 妖怪なんて、今時、小学生だって信じていない。

「えっ?何、お前って不思議ちゃんキャラだっけ?」
「違うわよ!ちょっと昨日、変なもの見て、気になっちゃって・・・」
「変なものって?」

 杏子は、神妙な面持ちで語り出した。

「学校裏の小屋って知ってる?ほら、あの青い屋根の」
「ああ、あれか・・・」

 晶の頭の中で映像が展開される。
 湿っぽい林の入り口にある窓ガラスが割れたり、腐ったりしている使われなくなった物置小屋である。昔は、学校の資料とかを入れておいたりしたそうだが、今は、もっぱら怪談や暇を持て余す時の、話の種になっている。この学校の生徒で知らない者はいない。

「昨日、見たのよ。偶然なんだけど、割れたガラス戸の向こうに、紅い眼が二つ、光って、こっちを見ているのを・・・」
「馬鹿らしい。怪談話の聞きすぎだろ?」
「違う!確かに、あれは眼だったの!」

 そう言うと杏子は、見た状況について熱弁し出した。