ガキンッ! カキンッ!

 秋風吹く夜、二つの影法師が金属音と共に、幾度もぶつかり合っていた。住宅街が近くにあるせいか、遠くからは犬同士の呼び掛け合いが聞こえる。

 徐々に二つの影法師の動きが激しくなり、それに合わせるように、金属音と犬の声が頻繁になっていった。

 ガキンッ! カキンッ! キンキンッ!

 『ワオ~ン!』

 何処かの犬が取分け大きく吼えたその時である。
 グジュァ!
 一方の影法師を、細長い影が貫いた。舗装されたアスファルトの地面に紅い液が飛び散る。

「グハッ!」

一方の影法師が怯む。その間も、地面には絶えず紅い液がとめどなく流れ出る。

「これで終わりだな・・・・」

 もう片方の影法師の良くとおる声が冷淡に言い放つ。
 しかし、よろめきながらも、影法師の目には、絶望の色は無い。

「マダダ・・・マダ負ケテハ、イナイ・・・・・」

 そう言うと、陰法師は、服の中から何かを取り出し、地面に叩きつける。

「なっ!」

 辺りに霧のようなものが広がり、視力を失わせる。
 視力を取り戻した頃には、紅い液を垂らした影法師の姿は消え去っていた。

「ちっ!逃がしたか・・・」

 そう言いながら、影法師は先程まで、相手のいた地面を見る。
 そこには、影法師の流した液が、点々と寝静まった住宅地へと続いていた。

「虹ヶ丘市・・・。よりにもよって、ここに逃げ込むとは・・・」

 そう苦々しげに言うと、影法師は紅い液をたどっていく・・・・
 溜まった紅い液の中には、月が紅く輝いていた・・・