「苺か。…気を付けろ」

そう言うと私の方へと歩きだした大魔王さん。

そして、すれ違うときだった。

「あまりそんな姿を晒すものではないぞ」

耳元でそう囁いたのだ。

一気に急上昇する私の体温。
顔が火照ってるのが自分でも分かった。

「このっ…、変態!」

そして、にやにやと意地悪い笑みを浮かべながら、大魔王さんは去っていったのだった。

「全くどこまでサドなんだよ、もう…」

荒々しく服を脱ぎ、ぶつくさ文句をつぶやきながら浴槽に入ったとき。

「フィーさん!?」

気絶してるのか、床に突っ伏しているフィーさんとその脇に落ちている風呂桶が目に入った。

…さっきのガコンってまさか。

大魔王さんがフィーさんを風呂桶で殴った音?

…本当、なにがあったんだろ?

「フィーさん?フィーさん?」

数回、呼び掛けると。
フィーさんはうっすらと瞳を開いた。

「ああ、申し訳ございません!」

すぐに髪を縛ると、フィーさんは私にバスタオルを差し出した。

そして。

「こちらでございます」

フィーさんに促されて、浴槽に入る。

…が。

そこで見たものは想像を絶する光景だった。

「私自慢のチョコレート風呂でございます」

いや、チョコレート風呂なのは分かるけど…。

これ、もはやチョコレートじゃない?
巨大な鍋で溶かしたチョコレートみたいなんですけど。

風呂か?
風呂っていうの、これ!?

「さあ、早くお入りください。固まってしまいますよ」

固まってしまいますよ!?
覚めてしまいますよじゃなくて!?

…絶対チョコレート主義ですね、分かります。

「まあでも…」

入ってみたら案外!っていうのもあるかもしれないし…。

私は恐る恐る、チョコレート風呂に足を突っ込んだ。