林の心には大きな穴が開いていた。

その穴は、男が大好きな「あの穴」があれば埋まる穴だろう、

そんな風に林は考えていた。

しかし、その穴は想像以上に大きい穴だったようだ。

大学に入って間もない頃から3年間も付き合った彼女に浮気されたのだ。

そして自分と浮気相手を天秤にかけられ、自分は捨てられたのだから。





彼は振られてから三日間起きている間はビールをあおり続けた。

内定がいまだに決まらない上に卒業単位もまだ揃わず、彼女以外の人間関係も疎かにしてきた彼には、酒を飲む以外に現実から逃げる手段はなくなっていたのである。

そういうと若干の語弊があるかもしれない。

厳密には、酒と女以外楽しみがなくなっていた。

彼女の家に行き、酒を飲み、寝る前に彼女を抱く。

朝目を覚ませば彼女が上に乗っていることもあった。

朝彼女を抱いてから朝飯を作ってもらい、彼女の出勤を見届けた後にはまたビールをもう一杯。

まさにこの世の天国を味わっていた。

この生活があれば他に何もいらないし、欲もなくなっていた。


それだけに、彼は振られたことがショックだった。

最後の数日、彼女はいつもどおりの彼の愛撫に何ら反応を示さなくなっていた。

彼はこの「男が一度は夢見るような生活」が終わることが分かった。

女は正直だ。あの鈍感な林にも、彼女のキスの仕方、抱かれ方が変わったのが分かったのだから。

しかし、彼女との生活にすっかり骨抜きにされていた林には、流れる潮流に抵抗する術などなかった。