指環の存在には初めから気付いていた。その内、彼女が他の誰かのものになることもわかっていた。
 ……だけど。

 時々読みかけの本から目を離し、物憂げに海を見つめる彼女の姿が目にやきついている。


 ……恋なんだろうな、これって。決して報われるような恋ではないけれど。


 でも、彼女が店に来て帰るまでの二時間は、今までになかった至福の時なのだ。
 たとえ彼女にこの想いが伝えられなくても……彼女の姿を見ていられるだけでも。



 ……せめてアルバイトの期間が終わるまで。