急いで物置へと戻った筈なのに、もう彼女の姿はなかった。
 ただ、白い帽子のみが床で主人の手に戻るのを待っていた。

 帽子を拾い上げ、微かに残る彼女の香りを感じて、さっきの事を思い出す。
 夢の中の出来事……いや、確かに現実だ。その事実が僕の手の中にある。

 そっと唇に触れ、しばらく僕は物置の中で立ち尽くしていた。