理性なんか、とうの昔に失せていた。
……このまま、時を止めてしまえれば。

 だけど彼女の左手の指環が目に入った時、また理性が甦る。

 体を離した後、彼女は大きく息をつく。

「私……」

 後ろめたさもあったのだろう、切なそうな彼女の瞳が、見るに忍びなかった。

「傘を持ってきます……待っていて下さい」

 彼女と目を合わせないように、僕は雨の中へ飛び出した。