その優しさを兼ね備えた小さな手は、簡単に俺を突き落とす。


誘われるままに――残酷な程に。



だけど、今日は違った。


ふと、温まった空気が冷たい空気に変わる。

それを感じたのは頭の辺り。



美桜、もしかして布団剥がした?

今にも眠りに落ちそうなぼんやりとした頭の中で、思考を繋ぐ。


柔らかい髪が頬を滑り落ちて。



唇にふと感じた温もり。

淡い温度は、一瞬で溶かされてしまったけど。


「――美桜」

俺は、夢と現実の深い狭間から戻って来たんだ。

いつもは背中に触れ、トン、と優しく押し出す手のひら。


今日は後ろから回された美桜の小さな手。

その手に優しく握られ、俺は後ろへ引っ張られる。


足元に広がる深い闇へと落とされることなく。



「……あ、」

“しまった”とでも言うような、美桜の赤い顔。

照れてる、顔。



「起きちゃった」