何もない…何も見えない。


そこにあるのは『黒』だけだった。
バルドは自分が目を開けているのか閉じているのか、少しの間悩んだ。
そう…悩むくらいの漆黒が眼前に広がっていた。
そして、自分が今何処に居るのかも解らなかった。


バルドは、この漆黒の中に来る前の出来事を断片的に思い出してた来た。


そう…そうだ!
給金係りに痛めつけられて気絶し、雨粒が顔に当たり…目を覚まし、確か…地面の亀裂から、糸…黒い糸が現れたんだ。


そこで、『大いなるチカラ』と引替えに‘黒い糸’と合体して…


カッ!


瞳に光が飛び込んで来た。
バルドは、いつも見慣れている給金所の裏通りだという事に気がついた。
だけど…何か少し違う風景だと感じた。


バルドは歩き出した。ヒタ…ヒタ…ヒタ…
静かな裏路地にバルドの裸足の足音が谺(こだま)する…

ヨタヨタ…トボトボと自分の住家に足を運ばせるバルド。
慣れてる家路なのに、何故か慣れていない感覚。

違和感を感じつつ家に着いた。


!!!


ドアの掴みが、いつもより低いのに気がつきました。